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大阪高等裁判所 昭和40年(ネ)1927号 判決 1967年4月06日

控訴人(被告) 和信産業海運株式会社

右訴訟代理人弁護士 菅野次郎

被控訴人(原告) 和光海運株式会社

被控訴人(同) 岡部清一

右両名訴訟代理人弁護士 坂東平

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

<全部省略>

理由

控訴人が被控訴人ら主張のような約束手形四通を振出し、被控訴人らが現にその所持人であること、被控訴人らが右各手形を満期に支払いのため呈示したところ、その支払いを拒絶せられたことは、いずれも当事者間に争いがない。

そこで控訴人の抗弁について判断する

まず控訴人は、被控訴人らが本件各手形金債権を訴外岡部寅吉に譲渡したというが、右のような事実を認めるに足る証拠はない。

次に相殺の合意の点について考えるに、控訴会社を売主、右岡部寅吉および訴外山元商事株式会社を買主として、控訴人主張のような船舶売買契約が締結されたことは当事者間に争いがない。控訴人は、被控訴人らはその際本件各手形金債権の処分権限を訴外岡部寅吉に賦与するとともに、同訴外人は控訴会社との間に右手形金債権合計金一六四万三三四九円をもって前記売買契約の手付金又は代金内金と相殺する旨を合意したものであると主張する。そして被控訴人らは一旦右相殺の合意の事実を認めたが、その後右自白を取り消して右合意の事実を争い、相殺の予約があったにすぎないと主張するので、右撤回の効力について検討しなければならない。

<証拠省略>次のような事実を認めることができる。前記船舶売買契約は、被控訴人らの控訴会社に対する本件手形金債権等の回収をはかるため考えられたものであること、従って売買代金七五〇万円は、まず本件手形金一六四万三三四九円と訴外山元商事株式会社が控訴会社に対して有する手形金二二六万三三二八円の合計三九〇万六六七七円と相殺し、残額は内金一〇〇万円を現金で、残二五九万三三二三円を買主ら共同振出しの手形で支払う約束になっていたこと、そして本件船舶は売主である控訴会社の所有でなく、訴外豊和海運株式会社の所有であり、かつ右船舶には秋田銀行に対し抵当権が設定してあったので、代金決済等は右担保解除の上、一切秋田銀行の窓口ですることになっていたこと、以上のとおり認めることができる。そうすると、本件手形金債権は昭和三七年五月一六日すでに右売買代金の内金ないし手付金支払債務との相殺により消滅したものではなく、将来これを売買代金の内金として充当する旨の予約が成立していたにすぎないものと認めるのが相当である。従って被控訴人らの前記自白は真実に反するものであり、そのことから考えて同人らの錯誤によるものと推定すべきである。

もっとも成立に争いのない乙第一号証は昭和三七年四月二四日調印の権利書受渡仮契約書と題する書面であるが、その第四項には、買主らは調印と同時に金三九〇万六六七七円を手付金として支払い、売主はこれを領収した旨の記載がある。また成立に争いのない同第二号証は昭和三七年五月一六日調印の権利書受渡仮契約書覚書と題する書面であるが、その第四項にも、買主らは調印と同時に被控訴人らの一六四万三三四九円、山元商事の二二六万三三二八円の手形分を内金として支払い、控訴会社はこれを領収した旨の記載がある。しかしながら前掲柴田勉の各証言および被控訴会社代表者の尋問の結果によると、右各証書は予定どおり事が運んで結着がつくことを前提とし、かつ秋田銀行に対し前記抵当権解除の申請をする必要上作成したためか、書類の体裁は整っているものの、いわば作文的条項が散見されるのであって、とくに昭和三七年四月二四日に一旦、本件手形金債権を船舶売買の手付金支払義務と相殺することを合意したといいながら、さらに同年五月一六日には同じ手形金債権を今度は内金支払債務と相殺する旨合意したと記載している点、船舶の引渡しはまだないにかかわらず、船のことだから鯉のぼりの日がよいということで昭和三七年五月五日に受渡完了せりと記載している点、受渡完了したと記載しながら船舶受渡場所を阪神間と記載したままにしている点等は真実を伝えるものではないことが明らかである。このようなことから考えると、右各書面に相殺合意の記載があるからといってこれを信用せねばならぬとすることはできない。しかも、もし相殺合意ができているとすれば、本件各手形が控訴人に返還されているか、或いはその返還について何か話合いがされているのが通常の事例であるにかかわらず、本件手形は依然として被控訴人らが所持しており、手残り手形といわねばならぬ本件手形の返還について話合いが行なわれた事実を認めるに足る証拠もないのである。

そうすると相殺の合意が成立した旨の被控訴人の自白の撤回は有効である。したがって控訴人主張の相殺合意の事実は被控訴人の争うところであるところ、本件の全証拠によってもこれを認めることができないから、右抗弁は採用することができない。

してみると、相殺の合意があったことを前提とするその余の争点について判断するまでもなく、本件各手形金およびこれに対する各満期の翌日から完済まで、手形法所定年六分の利息の支払いを求める本訴請求は正当であり<以下省略>。

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